
ナプキン、タンポン、吸水ショーツなど、月経をケアするグッズは多くありますが、近年、月経カップが登場し、女性の注目を集めています。
月経カップとは、月経期間中に膣内に挿入し、経血を溜めて使用する生理用品です。身体への安全性が認められた医療用シリコンなどの素材で作られています。月経カップは、正しく使用すれば、月経期間を快適に過ごせるだけでなく、洗って繰り返し使用できることから環境にも優しく、今話題のサスティナブルな商品です。
しかし、月経カップの使い方を間違うと、経血が漏れ出し衣服を汚すだけでなく、健康に影響を及ぼしかねません。そこでここでは、月経カップの正しい使い方を医学的観点も交え、解説していきます。
月経カップの名称

正しい使い方を知るためにも、月経カップの名称を一つずつ、画像1を見ながら、確認していきましょう。
① ステム
ステムは、カップを膣内に挿入したり、取り出したりするときにサポートする役割を持つ部分です。月経カップの種類によって、その形状が異なります。今回の画像1の場合は、しっぽのような形になっており、取り出しやすい形状です。月経カップによっては、ステムがリング状になっているものもあります。
② リブ
リブは、折りたたんだカップが膣内で開きやすくする役割を持つ筋の部分です。リブの部分だけ、本体やリムよりも、若干厚みのある構造で筋になっています。これは、骨盤底筋の収縮による膣圧がカップに加わったときにも変形せずに、本体の形状を崩さないためです。
③ 本体
本体は、経血を受け止めて溜める役割を担う部分です。月経カップの種類によって容量が異なるものの、10ml~40mlほどのものが多くなっています。本体を含め、カップの素材は医療用シリコンとなっており、非常に柔軟性に富んだ柔らかいものです。月経カップの中には、メモリが付いているものもあり、経血量を把握するのに役立ちます。
④ 空気穴
空気穴は、月経カップと膣壁の密閉を解除するために開いている空気の通り道です。月経カップの形やブランドによって異なりますが、3~4つ程度の穴が開いていることが多くなっています。カップの形状上、空気穴がないものもあるので、添付の説明書を確認するといいでしょう。空気穴があるものは、使用前に穴がきちんと開いているか、確認してから使用する必要があります。
⑤ リム
リムは、月経カップと膣を密着させる部分です。膣圧がかかると形が変わる膣の形状に合わせて、柔軟にフィットする柔らかさがあります。しかし、本体よりも分厚くなっており、膣の形が変化しても折れ曲がったり、つぶれたりしないような硬さを併せ持つ構造になっているのです。硬いとはいえ、挿入時に痛みを伴うほどの硬さはありません。
月経カップの形は好みで選べる

月経カップにはさまざまな形があり、V字型(画像2の左)、ボール型(画像2の右)、ベル型などがあります。ご自分の好みや使いやすさなどで選ぶのも良いですが、月経カップはその柔軟性も重要です。素材の硬さ、柔らかさによって、装着感、入れやすさ出しやすさが変わります。
画像2のV字型『エヴァカップ』は、リムの部分に厚みがあり、程よい硬さがある月経カップです。画像3のボール型『フルムーンガール』はすずらんのような見た目をしており、丸みを帯びた形状で材質は柔らかめ、ステムがリング状になっています。
月経カップの入れ方
月経カップの入れ方の手順を解説します。
- 手指をきれいに洗います。
- トイレの便座に腰かけるか、足を肩幅くらいに開いてスクワットの姿勢で立ちます。
- 挿入しやすい形に、月経カップを折りたたみます。
※折り方は、こちらをご参照ください - カップを折りたたんだまま、しっかりと持ち、もう一方の手で陰唇を開きます。
- 息を吐き、下半身の力を抜きながら、膣口から挿入していきます。
- ステムが膣口から隠れるまで挿入します。
- きちんと装着できているか確認します。

きちんと月経カップが装着できているときは、
- ・痛みや異物感がない
- ・ステムを弱く引っ張っても動かない
上記の状態です。
入れた後は、装着感を確かめるようにして、痛みや違和感がある場合は、もう一度チャンレンジするといいでしょう。
月経カップ3つの折り方
月経カップには、大きく分けて3つの折り方があります。実際にご自分のカップで試してみて、一番持ちやすく、しっくりする持ち方を覚えるようにしてください。
1.Cフォールド

リムが上から見ると、アルファベットの「C」になるように折るのがCフォールドです。リムを平たく押しつぶして、内側へ折り込むようなイメージで、リムをCの字上にします。
2.セブンフォールド

リムを上から見たときに、数字の「7」になるように、上から下に折り曲げるのが、セブンフォールドです。
3.パンチダウンフォールド

リムを内側に折り込み、リム部分を細くするため入れやすく、膣内でカップが開きやすいのがパンチダウンフォールドです。
月経カップの取り出し方
月経カップの取り出し方について、順を追って解説します。
- 手指をきれいに洗います。
- トイレの便座に腰かけるイメージでお尻をやや浮かせた状態にするか、足を肩幅くらいに開いてスクワットの姿勢で立ちます。
- リラックスしながら、指を膣口に添えます。
- 下腹部に力を入れて、排便するイメージで骨盤底筋に力を入れていきみます。
- 指の第一関節くらいが入る程度まで膣口に添わせ、ステムに触れます。
- ステムが触れない=月経カップが降りてこないときは、何度かいきみます。
- ステムに触れたら、親指と人差指(中指を加え3本でもOK)をステムに添わせ、カップ本体の底部をつまんで、膣とカップの密着を解除します。
- 本体の底部を持ったまま、膣からカップをゆっくりソッと引き出します。
- カップに溜まった経血をトイレに捨てて流します。


親指と人差指、中指をステムに添わせ、カップ本体をつまんで、膣とカップの密着を解除
します
月経カップに経血が溜まったら、8の手順でソッと引き出し、経血をこぼさないように、トイレに捨てて流しましょう。
月経カップ2つの消毒方法
ここからは、月経カップのメンテナンス=お手入れについて解説します。お手入れを怠ると、気持ち良く月経期間を過ごせないだけでなく、思わぬ健康トラブルを招く恐れがあるからです。

出典:ナイトカルテ
まず、月経カップを洗う頻度は、1日1回を推奨しており、この時の洗浄は、低刺激の石鹸と水かぬるま湯を使用します。石鹸は香料などの添加物が入ってない、無添加のものを選びましょう。デリケートゾーンソープを使用している方は、そのソープを使用するといいですね。
そして、少なくとも2~3カ月に一度は、消毒をして清潔を保ちましょう。月経カップの消毒にもっとも適している消毒方法は、“煮沸消毒”です。煮沸消毒とは、沸騰したお湯に消毒したいものを入れて、一定時間煮ることで雑菌を不活性化する方法です。赤ちゃん用の哺乳瓶や長期保存用のジャムの瓶などに、この方法が使われます。
お手入れの一環として、以下では、2つの煮沸消毒方法をご紹介します。
1.鍋を用いた煮沸消毒
【必要物品】
鍋・水・菜箸、もしくはトング

- 鍋に水と月経カップを入れます。
※このときの水の量は、月経カップが十分に浸かるより、少し多めです - 鍋を火にかけて、沸騰するのを待ちます。
- 沸騰してから10分間、煮立てます。
※カップ全体がお湯に浸るように、菜箸などで調整します。カップが鍋に触れたままだと、カップの破損につながります - 火を止めて、菜箸などでカップを取り出します。
- 水気がなくなるまで、完全に乾かします。
- 清潔な容器に入れるなどして、保管します。

【簡単!】泡立て器を使って煮沸する方法
【必要物品】
鍋・水・泡立て器

- 泡立て器の中に月経カップを入れ込みます。
- 鍋に水を入れます。
※このときの水の量は、月経カップが十分に浸かるより、少し多めです - 鍋を火にかけて、沸騰するのを待ちます。
- 沸騰してから10分間、煮立てます。
※泡立て器の素材が熱に強ければ、このまま放置してOK! - 泡立て器に入れたまま、湯から引き上げます。
- 泡立て器に入れたまま吊るし、水気がなくなるまで、完全に乾かします。
- 清潔な容器に入れるなどして、保管します。

【ポイント】
泡立て器を使うと、10分煮立てている間、浮かんできたり、鍋にくっついたりする月経カップを菜箸で泳がせる必要がありません。
泡立て器の材質にもよりますが、熱に強い素材が多いため、鍋に入れたまま放置も可能。ずっと見守るわずらわしさもありません。
湯切りも、その後の乾燥も容易にできるため、非常におすすめです。
鍋を使う煮沸消毒の注意点
- ・鍋は月経カップがしっかり沈む程度の深さがあるものを使用する
- ・カップが浸るよりも少し多めの水を入れる
- ・カップは水の状態から水に入れておく
- ・カップが浮かんでしまわないように見守る
- ・カップが鍋に触れたままにならないよう、お湯に泳がせるイメージで調整する
- ・お湯を捨てるときは、火傷に十分気をつける
2.電子レンジを用いた煮沸消毒
【必要物品】
耐熱容器・水・電子レンジ
- 耐熱容器に水と月経カップを入れます。
※このときの水の量は、月経カップが十分に浸かるくらいです - 蓋をして、電子レンジ内に置きます。
- 600Wで5分間、加熱します。
- 電子レンジから取り出し、冷まします。
- お湯を捨て、カップを取り出します。
- 水気がなくなるまで、完全に乾かします。
- 清潔な容器に入れるなどして、保管します。



月経カップ「フルムーンガール」、クリーンカップ「ムーンクリーンカップ」の画像
出典:ナイトカルテ
月経カップの取り替え頻度
と使用期限

出典:ナイトカルテ
月経カップの取り替え頻度は、4時間程度を目安に行うといいでしょう。特に経血量が多い方は、3時間を目安にすると安心です。月経カップは、膣内に入れておける時間に制限はないものの、経血量によっては漏れが起こる可能性があります。特に経血量が多い日は、注意が必要です。また、血液を長時間溜めておくと、においの原因になります。
月経カップの取り扱い説明書には、最大12時間継続して使用できると書いてあるのに、なぜ?と思われる方もいるかもしれません。ですが、月経カップに慣れ、ご自分の経血量がある程度把握できれば、取り替え頻度も、上記を守らねばならないことはありません。ご自身の経血量に合ったペースで取り換えを行えば良いのです。
なお、月経カップの使用期限に、特に決まりはありません。医療用シリコン素材の月経カップの場合、お手入れをきちんと行っていれば5~10年使用できるとされています。「清潔を守り、きちんと消毒する」このお手入れを行っていれば、かなり長い期間にわたって使用可能ということです。まさに、サスティナブルですね。
正しい使い方で月経期間を快適に
月経カップは正しく使用すれば、月経期間を快適に過ごせるだけでなく、環境に配慮したサスティナブルな生活が送れるアイテムです。皆さんも、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
月経カップを使うと、ご自身の経血量が目で見て確認できるのも、おすすめポイントの一つです。すぐにカップがいっぱいになり、交換を頻繁に行わなければならない、いつもより明らかに経血量が違うなどの異変にも気付きやすくなっています。また、挿入・抜去時にひどく痛みを伴うなど、婦人科系疾患の異常が分かりやすいです。
経血量の異常や陰部の異常に気付いたら、お早めに新宿駅前婦人科クリニックにご相談ください。プライバシーに配慮した環境の中、月経に関する異常、感染症の相談など、あらゆる婦人科疾患に対応しています。お一人で悩まず、お気軽にご来院ください。
この記事を執筆した医師

新宿駅前婦人科クリニック 院長 山下 昌樹
日本大学医学部を卒業
産婦人科医としてクリニック・病院で勤務
2022年11月新宿駅前婦人科クリニック院長に就任
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本医師会認定産業医
日本温泉気候物理医学会温泉療法医